惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「だって彼がいつも持ち歩いている飴玉・・・あれって君の瞳の色をしているよね?」

 ジルさんは身を乗り出し、私の瞳を覗き込む様に見つめた。
 ・・・飴玉・・・ルーカスがくれた、あのメロン味の飴玉のこと・・・?

「彼はいつもその飴玉を愛しそうに見つめていたよ。ちょうだいって言っても絶対くれなかったしね。いつだったか、気になってこっそり拝借した時には、本気で殺されかけたよ・・・あの時の恐怖は今思い出しても震えるなぁ・・・」

 ジルさんは苦笑いしながらも、その時を思い出すように身震いした。

「だからさっき君の瞳を見た時に、その理由が分かったんだよ。彼はどんな時も、いつも君の事を想っていたんだね」

 そう話すジルさんは、ルーカスの想い人が私だと信じて疑っていないようだ・・・だけど・・・。
 私はルーカスから手紙を貰った事は無い・・・それに・・・。

「それは・・・多分私ではありません」

「え・・・?」

 ドレス屋さんで、エメラルドの宝石の話を聞いた時・・・私の頭によぎった事があった。
 エメラルドの様な緑色の瞳をした女性を知っていたから・・・。

「私は手紙を受け取っていません・・・。あと・・・私と同じ緑色の瞳を持つ人物は、もう1人いますから・・・」
 
 私の言葉に、ジルさんは信じられない様子で呆気に取られている。

「え・・・?でもさっきのルーカスの私に対する態度は、どう見ても嫉妬だよね?」

「えっと・・・それは・・・ちょっと事情があって・・・」

 惚れ薬の事・・・この人に話しても良いのだろうか・・・?

 私はテーブルに置かれたティーカップを両手で持ち、口元へ近づけた。
 その様子を見ていたジルさんは、何かに気付いた様に眉を上げた。
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