惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「やっと帰ったか・・・」

 いつの間にか部屋の前まで来ていたダンが、呆れた様子で公爵の背中を見送っていた。

 俺は来ていた上着を脱いで、ダンに押し付けた。
 あの店で香水臭い女に触れられた時に不快な臭いまで染み付いてしまった。

「あの男の娘の臭いが移った。捨てとけ」

 そう言うと、俺は急いでエリーゼのいる部屋へと向かおうとした。
 その時、突然背後に現れた『影』の気配に足を止めた。

「・・・例の件、無事遂行しました」

「随分遅かったな・・・」

 俺は納得いかない表情で後ろの『影』を睨んだ・・・が・・・その顔を見て愕然となった。

「少し・・・抵抗されまして・・・」

 言いづらそうにそう言う『影』の顔には多数の引っ掻き傷が連なっていた。

「うわ!!?君がそんなになるなんて・・・どんな猛獣相手にしたのさ?」

 それを見たダンも驚き慄いているが、『影』は黙ったまま俯いている。
 その反応も仕方が無い・・・今回の件はさすがにダンに話す訳にはいかないからな・・・。

 一応ユーリは俺の友人でもあるから、手荒な真似をして傷付ける訳にはいかないと思って、反撃をされるがままに受けたのだろう。
 あの女がタダで捕まるはずが無かったな・・・コイツには少し可哀想な事をした。

「ご苦労だった。しばらく任務を解く。ゆっくり休め」

「はっ!!ありがとうございます!!」

 深々と頭を下げ、俺の『影』は姿を消した。
 それを見届け、俺は急いで部屋を出て、ジルとエリーゼのいる応接室へと向かった。
 ダンも俺の後を付いて来ている。
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