惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 ダンに連れられ、エリーゼは部屋から出ていった。
 扉が閉まると、俺はすぐさまジルの胸ぐらを掴みあげた。

「お前がエリーゼに手袋を外せと言ったのか?」

「まさか・・・。彼女が自分から外したんだよ」 

 ジルは動じることなく、この事態を想定していたかのように余裕の笑みを俺に向けている。

 彼女が自分から・・・?
 たった数分間、話をしただけのやつに・・・?
 そんな事信じられない・・・信じたくもない・・・。

「嘘をつくな・・・。エリーゼが何も無くあの左手を見せるはずが無いだろ」

「ああ、私が彼女の左手の動きの不自然さに気が付いたんだよ。その事を聞いたら、その経緯について話してくれたよ。すごいじゃないか。自分の身を挺して君を守ったなんて・・・。だからその傷はルーカスを守った証だねって讃えたんだよ」

 なんだと・・・?
 俺を守った証だと・・・?
 俺にとっては・・・彼女を守れなかった証でもあるのに・・・!!

「ふーん・・・どうやら、エリーゼ嬢よりも、ルーカスの方があの左手を気にしている様だね」

「なに・・・?」

 ジルの胸ぐらを掴む手に力が入り、怒りも混じって震えだした。

「私が自分の体に刻まれた俺の誇りでもある、戦場での傷跡を武勇伝と共に彼女に話した時、興味津々で話を聞いていくれてたよ。そうしてるうちに、急に彼女から左手の手袋を外しだしたんだ。私に彼女の誇りを見せようとしてくれたんじゃないか?」

「誇りだと!?あの傷跡がか!?騎士のお前と一緒にするな!!」

「でもあの時の彼女は生き生きとしていたよ?お前が来たせいで一気に興醒めしちゃったようだけど」

「何も知らないヤツが・・・ふざけた事を言うな!!」

 勝手な事を言うジルを殴りたい気持ちを俺はギリギリの所で耐えていた。
 いつまでもヘラヘラと気持ち悪い笑顔を向けてくる態度も気に入らない。
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