惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 その日は村の子供達と数名の大人で少し遠出のピクニックをする事になった。
 不慣れな山道で、あまり体力が無かったルーカスは皆から出遅れて最後尾を歩いていた。
 そんなルーカスに私は付き添っていた。

 だんだんと前の列と距離が離れていき、私とルーカスは完全に孤立してしまった。
案内板もある、ほぼ一本道だからいつか合流できると、大人達もあまり気にしていなかったらしい。

 しかし・・・2人きりになった私達の前に突然、野生の狼が姿を現した。

 まだ12歳の私達には、目の前の脅威にただ怯える事しか出来なかった。
 その時、狼はルーカスに向かって飛びかかってきた。
 とっさに私はルーカスを突き飛ばしたが、狼は私の左手に噛み付いた。
 狼はそのまま私の小指を食いちぎり、私は跳ね飛ばされて、体を木に叩きつけられた。
 激しい左手の痛みと経験したことのない恐怖の中、頭を強打した私は意識が朦朧としていった。

 その後の記憶はほとんど無いが、うっすらと覚えているのは、血に塗れ転がった狼の死体と、ルーカスが泣きながら私に謝る声だった。

 その後、大人達に保護された私達はそれぞれ家に帰らされた。
 私は自宅で傷の治療を受けたが、失った小指はどうする事も出来なかった。
 数日間、左手の痛みと高熱にうなされて寝込み、体調が落ち着いた頃・・・ルーカスは村から姿を消していた。

 ルーカスの母親の話によると、ずいぶん前に、首都でも3本の指に入る名門学校へ入学が決まっていたらしい。
 私が寝込んでいる間、彼は何度も家に来てくれていた事も聞いた。

 しかし、入学試験に首席で合格し、学費免除の権利を得ていた彼は、入学を遅らせるわけにはいかず、私の回復を待つことは出来なかったらしい。
 ルーカスから口止めをされていたから、誰にもそのことを言えなかったと・・・。
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