愛しのキャットボーイ〜野良猫少年拾いました〜
お姉さんを買いたいんだ。
吐く息が白く、指先がかじかんで震えている。
耳鳴りがしそうなくらい、シンと静まり返る真冬の夜更けは、コート一枚では凌げない程の恐ろしい寒さだ。
「これで、お姉さんを買いたいんだ」
「……えっ」
私の真正面に立つ、カーキ色のモッズコートを着た青年は、まるでこれは当たり前の行動だと言わんばかりに私を見下ろし囁く。
その手が差し出しているのは一万円札だ。
高い身長に、月明かりか透けて反射する銀色のサラリとした髪の毛。
外国の血を引いていると一眼で分かる、エメラルドグリーンの瞳。
首をこてんと傾け、その柔らかな笑顔からは想像できないような言葉を発する青年を、私はただただ目を丸くして見つめていた。
「(なんで、こんなことに……)」
私は酷く動揺しながら、こうなった経緯を必死に思い出していた。
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