愛しのキャットボーイ〜野良猫少年拾いました〜
「春香、行こう」
「え、あ……うん」
クルリとさっきまで進んでいた方向とは逆に向きを変え、ユキはアーケード街を歩き出す。
しかし、突然ピタリと足を止め秀人を振り返った。ユキの表情は固く、目の奥は静かな怒りを孕んでいた。
「春香を変えたのは、僕じゃないよ。僕はきっかけに過ぎない」
「……」
「春香自身が、過去を受け入れて前に進んだんだ。……だから、今更出てきて、その邪魔をするのは許さない」
普段は比較的柔らかな声を出すユキが、怒っている時にだけ発する地を這うような低音に身体が自然と強張る。
秀人は何も言い返しはしなかった。