消えた未来
 蘭子は一ミリも照れる様子を見せずに言い切った。

 恥ずかしく感じた俺がおかしいのか。

「これ以上、美和さんを不安にさせないためにも、ね」

 それを聞いて、安心している自分がいる。

「蘭子は本当、母さんが好きだよな」
「好きっていうか、ほっておけない。どこかの誰かさんのせいで、不安定になりやすくなってるから」

 耳が痛い。

 そうやって困ってる俺を見て、蘭子は意地悪そうに笑っている。

「冗談だよ」
「どこがだよ」

 間違いなく本音だってわかるから、今言った言葉のほうが冗談というか、嘘だと思った。

 これ以上ここにいると、蘭子のおもちゃにされるだけだと思ったから、さっさと弁当箱を片付けて、保健室を出た。

「久我君」

 昼休みが終わるまで人がいない校舎裏にでも行こうとしていたら、後ろから織部さんに呼ばれた。

 その目は輝いているように見えて、嫌な予感がする。

「見つかってよかった。少し話したいことがあって、今時間ある?」

 織部さんが俺に声をかけたことで、周りが怖いものでも見るような目を向けてくる。

 織部さんが普通に話しかけてくるから忘れていたけど、俺の噂が消えたわけではないから、こういう反応は当然と言えば当然だった。
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