消えた未来
 俺は慣れたものだからどうでもいいけど、これは織部さんも同じような目で見られてしまうのではないかと思った。

 でも、本人は笑顔でいるから、どうやら気にしていないらしい。

 お互いにどうでもいいと思っているなら、わざわざ不安に思う必要はなさそうだ。

「星那と話して思ったんだけど、私が、久我君のやりたいことを手伝うっていうのはどうかな?」
「どうって、なにが?」

 唐突な提案で、誰だってそう反応するだろう。

 織部さん自身も、話の筋道のなさに気付いたみたいだ。

「さっき星那に『思い出作りなんて小学生か』って言われて。あと具体的になにするのかって聞かれて、思い浮かばなくて。でも、久我君のやりたいことを手伝うことならできるんじゃないかなって」

 その説明を聞いて、ため息が出た。

「要は、俺に丸投げするってことか」

 少しだけ、なにをしようとしているのか楽しみにしていたのが、バカみたいだ。

 そんな俺の楽しみなど知らずに、織部さんは笑っている。

 まあ、察せられても恥ずかしいだけだから、これでいいと言えばいいが。

「そうは言っても、別にやりたいことなんてないんだよな」

 遠い目をしながら言うと、視界の端で、織部さんが珍しいものでも見るような目をしている。
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