消えた未来
「意外。久我君は自由の象徴って感じだから、やりたいことがたくさんあるんだと思ってた」

 そんな印象を持たれていたとは、知らなかった。

 というか、自由の象徴ってなんだ。

 校則も気にせず、金髪にしているからそう思ったのだろうか。

「……ないよ。髪を染めたいってこと以外、やりたいって思えることがなかった。いや、違うな。楽しいって思えることがなかった」

 織部さんの目はまだ、信じられないと言っている。

 そこまではっきりと驚かれると、逆に笑ってしまう。

「そういうわけだから、織部さんが考えてることはできない」

 自分でも、どういう感情で言っているのかわからない。

 申しわけないと思っているわけではないし、残念に感じているわけでもない。

 ただ事実を言っているだけのような感覚だ。

 でも、なんとなく、織部さんを落ち込ませてしまったと思うと、罪悪感のようなものがあった。

「わかった。じゃあ、私が久我君とやってみたいことを考えておくね」

 それなのに、織部さんは真逆の反応を示した。

 いい笑顔でそれだけを言うと、走り去って言った。

 彼女の笑顔が印象的で、俺は少しだけその場に立ち尽くしていた。

 初めて話したときは、あんなに楽しそうに笑う人だとは思わなかった。
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