消えた未来
 もっと言えば、誰かのために動く人だとは思わなかった。

 少し前までは、なにかに怯えているような、絶望しているような顔をして、誰かと関わることを避けていたのに。

 やっぱり家族間の問題が解決したのが理由だろうか。

 今の織部さんのほうが、何倍も素敵だと思う。

 まあ、思っても恥ずかしくて本人には言えないけど。

 それにしても、織部さんが俺とやりたいことが気になる。

 一体、なにを提案してくれるんだろう。

 柄にもなく、想像するだけで顔がにやけていた。

  ◆

 あれから一週間が経とうとしているが、まだ織部さんからなにも提案されていなかった。

 そして、織部さんのやりたいことを聞くより先に、俺は学校に行けなくなった。

 喫茶店を手伝っているときに倒れて、そのまま入院することになってしまったのだ。

 久しぶりに学校に行くのが楽しかったのにこんなことになって、今さらながら、病気であることを恨んだ。

「そんなにたそがれて、なにかあったか」

 病室で窓の外を眺めながらため息をつくと、皇先生が入ってきた。

「……別に」

 誰かと楽しく雑談する気力なんてなくて、拗ねたように言った。

 こんな子供じみたことをする自分が嫌で、余計に気分が落ちる。
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