消えた未来
「お母さんが言ってたよ。最近、侑生が朝楽しそうに家を出るって。学校でいいことでもあったか」

 先生は言いながら、ベッドの端に腰を下ろした。

 しかしながら、そんな話題になったことよりも、母さんに気付かれていたことに驚いた。

 そして、自分がそんなにわかりやすいとは思っていなかったし、そこまで浮かれていたことも信じられなかった。

 どんな言葉を返そうかと考えながら先生の顔を見ると、雑談を続けようとしているようには見えなかった。

 それなりに付き合いがあるから、俺はこの表情の意味を知っている。

 言いにくいことがあるときの表情だ。

「今回の入院、長引く?」

 先生の質問を無視して自分が聞きたいことを聞くと、先生は目を見開いた。

 どうやら図星らしい。

 先生の視線は泳ぎ、ゆっくりと落ちていった。

「……しばらく、学校に行くのは許可できない」

 先生の声は、消えてしまうのではないかと思ってしまうほど小さかった。

 でも、それは間違いなく俺の耳に届いた。

 ただ、それを処理するのに時間がかかった。

 少しずつ理解して、泣きそうになっている自分に気付いた。

 そして、一人の顔が思い浮かんだ。

「……先生、一つだけ、わがままを言ってもいいか?」

 俺のわがままを聞いた先生は、なかなか頷かなかった。

 これがどれだけ周りに迷惑をかけることかわかっていても、諦めることができなかった。
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