消えた未来
 とにかく人がいない場所を求めて、廊下を歩く。

 本当は走りたい気持ちでいっぱいだったけど、こんな精神状態で先生に怒られでもしたら、堪えている涙は、私の言うことを聞いてくれなくなりそうで、必死に早歩きにした。

 星那に甘えたいという気持ちもあったけど、そのためには教室に行かないといけないわけで、そこでさっきの出来事を説明するのは嫌だったから、選択肢から除外した。

 しかし昼休みということもあって、どこも人が多い。

 結果、立ち入り禁止になっている階段しか、人がいない場所がなかった。

 罪悪感を抱きながら、立ち入り禁止を示す紐を越える。

 校舎の外から聞こえてくる笑い声を拒絶するように、隅で膝を抱えて丸まった。

 周りの音が気にならなくなってきたころ、久我君の冷たい声が頭に響いた。

『俺の未来に、君は』

 その先を思い出したくなくて、耳を塞ぐ。

『いらない』

 だけど、私の脳は容赦なく再生した。

 一人になったこともあり、私は涙を我慢しなかった。

 一粒流れれば、次々と溢れ出てくる。

 声だって我慢したくなかったけど、ここにいることを知られては困るから、声を押し殺して泣き続けた。

「真央」

 すると、星那の優しい声が聞こえた。
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