消えた未来
 明るくて可愛らしい結城さんとはかけ離れた、ブラックな一面だ。

 驚いたけど、人は見かけによらないこともあると、私は知っている。

 これもまた、結城さんなのだ。

「でも、阿部さんもいけないんだよ。嫌なら、嫌って言わないと」

 結城さんが真剣に注意してくれてることは、顔を見ればわかる。

 でも、内容が入ってこなかった。

「あの……私、織部です」

 私はこんなにも漫画のようなしまったという顔は、初めて見た。

「え、嘘、ごめんなさい。偉そうに言っておきながら名前間違えるなんて、邪魔するよりも失礼だ。本当にごめんね。織部さん。もう間違えない」

 結城さんの慌てふためくところを見ると、なんだか微笑ましくなった。

「ここ、笑うとこ?」
「だって、結城さんが可愛くて」

 私が笑ったことで、結城さんは頬を膨らませたけど、次の言葉で、頬を赤らめた。

 可愛らしい印象はずっとあったけど、今のほうがより可愛い。

 素の一面というやつだろうか。

「そうだ。織部さん、敬語はやめよ? 呼び方もルナでいいし。ルナ、織部さんと仲良くなりたい」
「私と?」

 結城さんは大きく頷く。

「ルナね、さっきも言った通り、自分の話をするのが好きなんだけど、あまりよく思わない人が多いのね。でも、織部さんはルナが話しても迷惑そうにしなかったから」
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