消えた未来
  ◆

『学校に行くのは許可できない』

 皇先生のそれに対して、俺が言ったわがままは、簡単に聞いてもらえるものではなかった。

「おい、侑生。今の話、ちゃんと聞いてたか」

 俺のわがままを聞いた先生は、当然、頷かなかった。

「聞いてたよ。でも、一日だけ許してほしい」

 それでも俺は、引き下がらなかった。

「自分の体がどういう状態かわかっていないのか? 今無理をすれば、危ないって言ってるんだ」

 先生の口調が次第に強くなる。

 それだけ自分は死にかけているんだと思った。

「……嫌なんだよ。あの人になにも言えないまま死ぬのは」

 死ぬのはずっと怖かったけど、今までとは比にならないくらい、織部さんに別れを言わずに死ぬことが怖かった。

「侑生、もしかして好きな人でもいるのか」
「はあ?」

 自覚していなかったから、そう返した。

「違うから。友達だよ」
「友達ねえ」

 怒りの感情はどこにやったと思うくらい、からかう気しかない顔をする。

 俺からしてみれば面白くないから、子供のように拗ねた。

「わかった。ただし、条件がある。行くのは、確実に話ができる昼休みだけ。話すとしたら、すぐにフォローできる保健室。それでいいか?」
「もちろん」

 学校に行くというわがままを聞いてもらっていながら、これ以上望むことはなかった。
< 138 / 165 >

この作品をシェア

pagetop