消えた未来
 それでもお姉ちゃんはからかってくる。

「 じゃあ侑生君は真央に任せて、邪魔者はさっさと退散しようかな」

 余計に気まずくなる言葉を残して、去っていった。

 というか、今のはあえて名前呼びを強調していた気がする。

 タチが悪い。

「えっと、じゃあ……久我君の病室に戻ればいい、かな」

 変に緊張しながら言った。

 久我君は不満そうに、私を見上げてくる。

「なに……?」
「名前呼び、よかったのに」

 久我君もからかう側だったのか。

 そう思うと、面白くない。

「……呼ばない」
「そう。残念。というか、ヤキモチ妬いてくれたってことは、織部さんも俺のこと好きなの?」

 久我君に確認されて思い出した。

 久我君から気持ちを伝えてもらったけど、私の想いは一言も言っていなかった。

 だけど、はっきりと口にするには勇気が足りなくて、私は頷いて肯定した。

「そっか」

 初めてと言っても過言ではないくらい、久我君は嬉しそうに顔を綻ばせた。

 そんな表情をしてくれるなら、ちゃんと言えばよかった。

 そう思ったけど、やっぱり顔を見ていると、言えない。

 久我君の背後に回り、車椅子の取っ手に手をかけたとき。

「……久我君が、好きです」

 本人に聞こえるかどうかわからない声量で、二年伝えられなかった想いを音にした。
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