消えた未来
「織部さんの髪触ってみたい」

　こんな感じで、主に久我君が恋愛雰囲気を全開にして過ごしていた。

　それでも、付き合ってはいなかった。

　そして一ヶ月くらいが過ぎて、ようやく久我君のその優しすぎる対応に慣れてきた。

　いや、慣れてはいないかもしれない。

　照れる気持ちより、幸せな気持ちのほうが強くなってきたと言ったほうが正しいかもしれない。

　それと同時に、私も久我君にこの幸せを返したいと思うようになっていた。

　今日は名前で呼んでみようと思いながら準備をしていたら、お姉ちゃんから電話がかかってきた。

「お姉ちゃん、どうしたの？」

　準備の途中ということもあって、スピーカーにする。

「真央、落ち着いて聞いて」

　お姉ちゃんの声は低く、聞こえにくかった。

　仕方なくスピーカーをやめて、スマホを耳に当てる。

「侑生君が………………亡くなった」

　十分すぎる間のあとに発せられた言葉が、やけにはっきりと聞こえた。

　私の世界の音は、それが最後だった。

　光が消えていく。

　色が消えていく。

　私の世界は、闇で満ちた。

　心の穴は大きくなりすぎて、感情がコントロールできない。

　私は混乱したまま、感情に任せて泣き叫んだ。
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