消えた未来
 士君と話していたときに感じた希望の光のようなものは、家に近付いていくにつれて、私の中から消えていった感じがした。

 闇に覆われて見えなくなったのか、その光自体が失われていったのかはわからない。

 ただ、たしかにその光は、行方不明になっていた。

『いろんなことを見て、感じて、経験する』

 それは、どんなことにも挑戦しようと思う人ができることだ。私には、できない。

 結局、お母さんたちの言うことに従ってしまう。逆らう勇気がない。

 現に、まだ帰らないのかというメッセージだけで、士君との会話を切り上げている。

 やりたいと思ったことを、お母さんを理由にやめた。

 久我君に知られてしまうと、今まで以上に軽蔑されてしまいそうだ。

 本当、周りに振り回されずに、自分のやりたいことをやっている久我君が羨ましい。

 私はきっと、これからも周りの言葉を気にして、今みたいに自分のやりたいことをやれないだろう。

『織部真央の人生は、あんたにしか生きられない』

 それがわかったところで、簡単には変われなかった。

 どんなふうにやりたいことを見つければいいのかを知っても、それをする勇気もない。

 こんなことなら、私が私を生きていないなんて、気付きたくなかった。
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