消えた未来
 星那は私が言おうとしていることに気付いていないみたいで、首を傾げる。

「また近くにあの人がいるってことだよね」

 そこまで言って、やっと理解してくれたみたいだ。

「可哀想に」

 さすがにここまで来ると、同情ではなく面白がられた。にやにやとした表情が、ご愁傷さまと言っているみたいだ。

「いいよね、星那は。八神なんて、後半の名前で」
「こればっかりはどうしようもない」
「そうだけど……」

 それでも文句を言いたくなるときだってある。

 体育館に着くと、私は静かに別れて自分の場所に立った。

 変に緊張していたけど、結局彼は姿を見せなかった。

 冷静に考えてみれば、不良がこういう式に参加するとは思えない。いいことではないけど、少しだけ助かった。

「相変わらず校長の話は長かった……」

 始業式が終わって、星那の第一声がそれだった。全身からやっと終わった、面倒だったということが伝わってくる。かなり素直な反応だ。

「あの話、聞いてる人っているのかな?」

 私も同じように思っていたから、そう答える。

 てっきり彼のことを言ってくると思っていたけど、気のせいだったみたいだ。星那が触れてこないから、私からわざわざ話題にはしない。そんなに彼のことを気にしていたいわけでもなかった。

「全校生徒、ただの無駄話だと思っているに一票」

 結構辛辣なコメントに、思わず笑ってしまう。
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