消えた未来
「やっと、ちゃんと笑った」

 星那は安心したような顔をして、私の頬を突っついた。私は星那が抑えた右頬を触る。

「そんなに笑ってなかった?」

 質問しながら、記憶を辿る。言われてみれば、あのときからずっと顔を強ばらせていた気がする。

「私と同じクラスだってわかったときに笑って以来、ずっと落ち込んでたっていうか、泣きべそかいた子供みたいだった」
「それは」

 そうなるのも無理ないようなことがあったから、と理由ははっきりしているのに、言えなかった。

 誰が聞いているかわからなかったし、いくら思っていても、誰かが嫌な思いをするようなことは言いたくなかった。

 すると、星那が私の髪をぐしゃぐしゃにした。

「ごめん、意地悪言った」

 謝っている割には、顔は笑っている。

「わかってて言ったでしょ。今度ジュース奢ってね」

 最初から冗談だってわかっていたけど、なにか仕返しみたいなことがしたくなった。

「今日じゃなくて?」
「今日は早く帰るって把握されてるから」

 星那はそれだけで理解したようで、深くは聞いてこなかった。付き合いが長いと、こういうところは楽だ。

「じゃあ、今日は真っ直ぐ帰るんだね」
「うん。星那は?」
「私は部活」
「そっか」

 そんな会話をしながら後ろのドアから教室に入ると、金髪が目に入った。

 一瞬で喉が締まった感じがして、声が出なくなった。星那はそっと離れていく。
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