消えた未来
「久我さん。去年はそれで許されたのかもしれませんが、私はそのつもりはありません。いくら貴方が」

 先生がそこで言葉を止めたのは、彼が先生の口を自分の手で塞いだからだ。

 実際は先生が言っている途中から睨んでいたように見えたし、それで止めるつもりだったのだと思う。

 だけど、それを先生が見ていなかったから、彼は行動した。

 これはすべてが見える場所にいた私だから、わかったにすぎない。ちゃんと見えていなかった人たちからすれば、彼が急に立ち上がって、先生に暴力を振るおうとしたようなものだ。

 だからこそ、周りが一気に騒がしくなった。その声が聞こえたからか、先生はなにかに気付いたような表情をした。

「……やっと周りが見えたか」

 彼はそう言いながら、手を離した。といっても、私がそう言っているように聞こえただけで、本当はなにを言っていたのかはわからない。それくらい、彼の声は小さかった。

「まだ話は終わってませんよ」

 先生の引き止める声も聞かず、彼はカバンを持って、教室を出ていってしまった。

 私も先生も、呆然と彼が出ていった先を見つめていた。

「先生、大丈夫でした?」
「いくら気に入らないからって、あそこまでしなくても……」

 他の生徒たちが先生を囲んで、心配の声をかける。それに対して、先生は笑顔で応えている。

「真央」
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