消えた未来
 あれだけ傷付けたくないと思っていた母さんを傷付けていたことにすら、蘭子に言われるまで、気付けていなかった。

 どれだけつらくても、それは他人を傷付けていい理由にならないんだって思った。

 それから改心したのはいいけど、母さんとどう接していけばいいのかわからなくなっていたし、学校に行く気にはなれなかった。

 家で過ごすこともあったけど、母さんは俺を一人にしておくことが不安だったようで、よく叔父さんの店に預けられていた。

 俺の特等席は、カウンター席の一番端だった。

「随分つまらなそうな顔をしてるな」

 ある日、カウンター越しに叔父さんが言ってきた。

「……楽しいことなんてないし」

 不貞腐れて言うと、叔父さんは手を伸ばして、俺の髪をぐしゃぐしゃにした。

「ガキがそんなこと言うな」
「だって、できないことだらけだし」

 またうつ伏せになる。

「そんなわけあるか。侑生が知らないだけで、侑生が楽しめることなんて、この世に山ほどあるんだ。それなのに、お前はなにもしないで過ごすのか?」

 そう言われると、どうせなにもできない、やらせてもらえないと決めつけているのが、もったいないと思った。

「俺、なにができる?」
「それは侑生自身が見つけないと。誰かに言われてからやるのは、面白くないだろ」
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