消えた未来
 だけど、入院中に思い出したのは、店で出会った人たちの笑顔だった。

 また、あの笑顔に会いたい。

 しんどくても、あの楽しさは捨てられない。

 失う怖さに押し潰されて閉じこもるなんて、そんなつまらない過ごし方をするほうが嫌だ。

 そう思ってから、俺は恐怖から目を逸らすようになった。

 いつだって余計なことを考えないように、自分が楽しむことだけを優先させていた。

 それは中学生になるまで続いた。

 中学に上がってからも店の手伝いをしようと思っていたのに、叔父さんに止められた。

「侑生は視野を狭めている。楽しいのは、ここだけじゃない」

 叔父さんは、気付いていたんだ。

 俺が逃げていたこと。

 自分が知っている楽しさにしがみついていること。

 そして俺は、仕方なく学校に行った。

 叔父さんは学校に行けと言ったわけじゃないけど、手っ取り早く周りを知るには、学校に行くことだと思った。

 そこで、部活動というものがあると知った。

 野球にサッカー、テニスにバスケに卓球。

 どの部活もみんな楽しそうにやっていて、心惹かれた。

 けど、当然のように運動は禁止されていたから、俺がそれらの部活に入っても、楽しくないのは目に見えていた。
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