消えた未来
 結局、やりたいことが自由にできないじゃないかと、半ば不貞腐れた状態で、文化系の部活も見学した。

 吹奏楽部は、楽器の演奏に興味が出なかった。

 合唱部は、女子ばかりだし、歌うだけはつまらなそうだった。

 美術部は絵が描けないから無理で、科学部は楽しそうだったけど、気楽に楽しめそうになくて、やめた。

 そんな中でいいなと思ったのが、園芸部と料理部だった。

 料理部も女子だらけだったけど、店の手伝いをしていたこともあって、料理をしてみたいと思った。

 部活を決めたことを一番に報告したのは、叔父さんだった。

「また逃げたか」

 ため息をつきながら言われた。

「違う。俺も、自分の料理で誰かを幸せにしたいって思ったんだ。あの店で出会った人たちの笑顔を、俺が引き出してみたいって」

 正直に言うのは照れくさかったけど、叔父さんが言葉で褒めるかわりに、頭を撫でてくれた。

「いいか、侑生。大切なものを失う恐怖を知っている奴は、ちゃんと大切にできる。それがあることを当たり前だと思わなくなる。だから、つらくても、その恐怖から逃げようとするな」

 当時の俺には、それは難しすぎて、適当な相槌を打った。

 理解はできなかったけど、恐怖に背を向けるなと言われて、できるわけがないと思っていた。
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