消えた未来
  ◆

 家に帰っても、気付けば久我君のことを考えてしまって、夜も眠れなかった。

 登校中も欠伸が何度も出た。

 校門が見えてきたときも欠伸をし、涙で滲んだ視線の先に久我君がいるのが見えた。

 久我君は、まっすぐと私を見ている。

 おそらく、いや、間違いなく欠伸をしていた瞬間を見られた。

 声を殺して笑っているのを見れば、それがわかる。

 逃げ出したい。

「こんなところで立ち止まってどうしたの、真央」

 本気で踵を返してしまおうかと思っていたところに、星那が来た。

 今日はとことんタイミングが悪い。

 久我君に欠伸をしているところを見られてしまったと言うのは恥ずかしくて、言葉に迷いながら前を見ると、久我君の姿がない。

 視線を外した一瞬のうちに、校舎に入ったみたいだ。

「……ううん、なんでもない」

 星那に根掘り葉掘り聞かれる前に、私も校門をくぐる。

「久我のこと考えてたんでしょ」

 背後からそんな声が聞こえてきた。

 からかわれているわけではないというのは、爽やかな朝にはふさわしくない暗い声を聞けば明らかだった。

 振り向くと、星那は真剣な眼をしている。

「私も頭から離れなかった」

 それは星那も久我君に対して恋愛感情を抱いているのか、なんて言える空気ではなかった。
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