酔いしれる情緒
「えっとー……春、だよ?」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ────" 櫂 " が、芸名?」
途端
「……何の話?」
彼はニコリと笑みを浮かべてそう返答した。
来ると思った…その返し。
「しらばっくれないで」
予想通りのそれに、私も用意していた言葉を春にぶつけていく。
「春が朝の情報番組に出てた。
映画の宣伝で……一ノ瀬櫂として。
もちろん、ありえないと思った。
春が芸能人なわけないって。
私みたいなただの一般人が
芸能人と巡り会えるわけないって。」
ジッと彼の顔を真剣に見つめる。
焦っている様子はない。
至って冷静で
お互いに逸らそうとはせず、
春も私のことを真剣な眼差しで見つめていた。
「……テレビに映る一ノ瀬櫂は、
顔も、声も、色素の薄いその目も」
そっと春の目元に触れる。
「春と同じだった」
同じ顔に
同じ声
そして色素の薄いその綺麗な目も同じ。
これが全くの別人なんだとしたら
逆に怖すぎるくらい。
「春は……一ノ瀬櫂なの?」
息を飲む。
さっきまでなかった緊張感が私を支配した。