酔いしれる情緒
「じゃあもうこの話は終わりでいいよね」
「いや、まだだけど」なんて言う前には肩を押され、ベッドに倒されてた。
2人して横になると
お互いに顔を合わせる。
もちろん、緊張はしてる。
未だに慣れないこの距離と
この場がベッドの上ってこともあって
当然身体は意識していた。
「いつかちゃんと言うから」
「っ、」
「その時まで、四六時中
俺のことばかり考えてればいいよ。」
そんな私とは違って春はいつも通りだ。
まるで計画通りと言わんばかりにニコニコと柔らかい笑みを浮かべて、ギュッと私を抱きしめる。
(言われなくたって…)
私の脳内はだいぶ前から春のことばかりだ。
今も尚、ずっと。
触れられてドキドキしたり
ご飯を作ることにワクワクしたり
一ノ瀬櫂の存在を知ってモヤモヤしたり
女の存在を知りムシャクシャしたり。
この感情だって全て春に向けてのもの。
悔しいけど、私の毎日は春ばかりで埋め尽くされているんだ。
「凛の傍は落ち着くね」
吐息が耳に当たると
それだけでピクリと身体が震えた。
春は私を抱きしめるだけで、この間のような手出しはしてこない。
異常な程に敏感になっているのはどうやら私だけみたいで。
(………、はやっ…)
あっという間に至近距離の彼からスースーと寝息が聞こえ始めた。
相当、疲労が溜まっていたのだろうか。
前にもこんなことがあった気がする。
春本人でさえも気づかないうちに寝落ちすることが。
閉じられた瞳を意味もなくジッと見つめる。
寝ている姿でさえも絵になるような顔立ち。
それだけでも、この人は私と棲む世界の違う人だと感じさせられる。
(桜田紬との関係、聞きたかったのに…)
知って何かが変わったりするのは嫌だけど、
この顔を眺められるのは私じゃない誰かもいるのだと思うと無性に苛立って、眠る春の頬をムニッと軽く抓ってやった。
それでも起きる様子を見せないコイツには、やっぱり少々心配にもなってしまう。
「……春だって、私のことばかり考えてればいいよ」
聞こえていないことを前提に、ポツリとそう呟いた。
案の定、寝息をたてて眠る彼は聞こえていないはずだけど、
私の身体を包み込むその腕は、
少し力が強まった気がした。