酔いしれる情緒




私だけしかいないリビングには静けさばかりが広がり、微かに玄関から聞こえる声に私は顔を上げた。





そういえば……誰だったんだろう。



やっぱり配達物?

それにしては遅い気がするけど。





春が玄関に行ってから数分は経っている気がして、様子を伺いに行こうとリビングの扉の方へ向かう。…と。





「っ、! ビックリし…」


た。



言う前に、私の口は春の手によって塞がれた。



な、なに…!?






「シー…」





人差し指を口元にあてて、静かにと言わんばかりに私にそう指示を出す。



咄嗟のことでキュッと口を閉じる私。




そんな私の腕を掴み、引っ張られると、そのままリビングに繋がる別の部屋へと連れられる。



部屋に入った途端、彼は私の口元から手を離した。





「なんなの一体…」





小さな声でそう聞いてみるけど、





「少しの間この中にいて。」





私の質問に答えるまでもなく、春は少し焦った様子でそう言っていた。



指さす先には大きめのクローゼット。


え、ここに入れと?





「理由は後で言うから。

とりあえず、ここから出てこないで。」


「ちょっと、春っ」





それだけを告げて春はこの部屋から出ていこうとする。




全く意味が分からない。


分からないけど、なんだか焦っている春がそういうのだからここに大人しく入ることが正しい選択なんだと思う。





(理由は後で教えてくれるらしいし…)





言われた通りにクローゼットの中に入ろうと


その扉を開けようとした、時だった。





「ゲッ」





春の声に、無意識にも振り返ってしまった私。





「えっ」





そして、思わず私も声を漏らす。




ちょうどこの部屋から出ようとドアノブに手をかけている春の向かい側、





「あの人……誰ですか?」





声を震わせて私の姿を凝視する、

1人の女の人の姿があった。






……そっくりそのままお返ししたい。



誰ですか?


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