酔いしれる情緒



「は、い…」




赤く染った顔を背けるように、由希子さんは視線を斜め下へと向けている。





「仕事の話は向こうの部屋で聞くから。」





そう言って。今度はずっと放置されていた私に視線をあてる春。





「"家政婦さん"も、もう仕事に戻っていいよ」





その顔はどこか愉しそうで、わざとらしい言い方だ。



でもやっぱり俳優なだけあって

演技力は高い気がする。





「……ハイ、モドラセテイタダキマス」





言いたいことは山ほどあるけど、とりあえずそれは由希子さんが帰ってからにして、今は春のその演技に合わせてみる。



だけど、私の演技はどこか下手だったようで。


クスリと春に笑われた気がしてムカつくけど、ニコリと笑っては誤魔化し、目が合った由希子さんにペコリと軽く頭を下げてから二人の横を通り過ぎた。




この二人の関係は一体何なのか

混乱しつつある現状ではよく分からないけど、



春くん、と。

慣れたように名前を呼ぶところとか

なんだかとても親しげな感じとか





「由希子さんはこっち来て。」





春の部屋で私じゃない他の誰かと2人っきりになることだとか。



気にするようなことでもないはずなのに、考え始めてしまえばずっとその事ばかり。




モヤッ…と心に広がる黒い影は

由希子さんが帰るまで晴れることはなく、




いつも通りに家事をして過ごす時間


その一分一秒が


この時はとても長く感じたのだ。

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