酔いしれる情緒
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言われた通りに家事をこなし
することが無くなった私は部屋で本を読む。
あれから2時間が過ぎ、未だに春の部屋には由希子さんがいる。
仕事の話、だと言っていたけど
それにしては……長いような。
一体どんな話をしているんだろうと
聞き耳を立ててみるも、残念ながら全く聞こえず。
部屋には二人の男女。
密室で2人っきり。
(だから…気にしすぎ、だってば)
モヤモヤと気分が悪くて
どことなくムシャクシャして
ソワソワとあの部屋の中が気になる。
たったそんなことなのに、本に集中出来ない私はやっぱりどこかおかしいのだろうか。
落ち着かず、気分転換に何か飲み物でも作ろうかと部屋を出ようとした時だった。
玄関の方から物音がして
(帰る、のかな。)
部屋から出てスグに玄関の方に視線をあてた。
するとやっぱりそこには二人の姿があって。
「では明日迎えに来ますね」
「了解。」
由希子さんは出て行く前に私に気が付くと、少し気まづそうにペコリと会釈した。
それにつられて私も頭を下げる。
一瞬だけ見えた由希子さんの姿。
艶があって綺麗なその髪は、少しだけ乱れていた。
パタリと玄関のドアが閉じきった音。
この空間にいるのは私と春だけ。
その事実を目と耳で感じると
さっきまでの胸騒ぎが落ち着き始める。