酔いしれる情緒
無意識にも止まってしまった手元。
2つ並んだマグカップ。湯気の出ているそれを、あとはマグカップに流し込むだけ。
残り1工程でコーヒーは出来上がるのだけど、
「えっ…?」
その作業を後にしてでも、
気になってしまったその事。
振り返って春と向き合い、私の思考はその一点に。
そういえば
帰る間際の由希子さん
髪、乱れていたっけ。
想像すれば胸がギュッと苦しくなった。
春のキスは優しい時と荒い時がある。
荒い時は後頭部に手を回されて深く求められるのだから、触れられている髪が乱れることを知ってる。
てことは、あの部屋で、二人は──…
春の人差し指が顎に添えられ、俯きかけていた私の顔をクイッと強引にも上へとあげる。
見つめる先は、妖しく微笑む春の顔。
「この顔が見たかった」
私を映すその瞳とムカつくほどに整った顔立ちにその笑み。
そしていつもとは違う声のトーンにくらりとなる。
一体私は今どんな顔をしているのだろうか。
春は心底嬉しそうな顔を見せているけど、逆に私は胸がズキズキと痛い。苦しい。
微かに視界がボヤけているのは、何故?