酔いしれる情緒
「なに」
「んー」
「補充したいんだけど」
「ん~…」
首を傾げる慎二くん。
「安藤さんって、誰かに似てるんすよね~…」
至近距離になると
タバコの匂いがこれでもかと鼻に付き、
自然と顔を歪めた。
コイツ……さっきタバコ吸ったな。
「あっ!分かった!!!マルだ!!」
「マルって誰よ…」
「ウチで飼ってる猫っすよ!マルは名前っす!」
「へえ」
「それそれ…!
その冷たい目で見てくる感じとか特に!!」
そしてまた、顔を近づけてくる。
いや、さすがに近すぎ。
そう感じた私は
この行き場のない本で
慎二くんを押し返そうとした───時だった。
「っ!?」
グンッ、と引っ張られた腕。
不意打ちな出来事に
私の身体は後ろへと倒れる。
そのため、慎二くんとの距離は出来た。
その事実にどこかホッとしたのもつかの間。
「ねえ、なにしてるの?」
耳に響き渡る音は
店内の静かな音楽だとか
お客さんの喋り声だとか
その全てをシャットダウンさせて
「凛」
ただ1人の声だけを聞き入れる。