酔いしれる情緒
「春。」
「ん。」と、結ばれているそれを見せた。
すると春は「ああ、」と未だに微笑んで
「もう少し眺めさせて?」
「は?」
「縛られてる凛の姿、もう少し眺めてたい」
…………この変態野郎。
何を言い出すかと思えば、いつにも増して気持ち悪いことをさらりと言う。
コイツはMなのかSなのか曖昧すぎる。
「しばくよ」
「それもいいかも」
「………チッ」
「舌打ちはちょっと傷つくな~」
ケラケラと笑いながら手首のそれを解く。
はあ、やっと自由になった。
手を使えないのは想像よりも厄介だ。
「あれ、どこ行くの?」
「部屋。」
春をその場に放ったらかしにして
自分の部屋へと移動。
もちろん私の後を追って春はついてくるのだけど。
部屋の中に入れば、春も当たり前のように中に入ろうとしてきたからそれだけは頑なに拒んだ。
手首を結んでくるようなヤツなのだから何されるか分かんないし。まあ今更だけど。
「冷たいなぁー」と、ドア越しから春の声。
その声を無視し、
本棚から一冊の本を取り出す。
私が向き合おうとしているそれは
春からもらったあの小説で
早朝だというのに眠気がない今
読み進めようと思って。
「凛。」
未だにドア越しから声が聞こえる。
呼ばれているけど
どうせろくでもない事だろう。
そうだと思い、全部聞き流してやろうと、
視線をその小説のみにあてる。
「俺、凛が好きだよ」
鍵はかけていないから
ドアノブに触れて
下におろす動作だけすれば
中に入ってこれるのに
「この家にずっと閉じ込めてたいほど、好きなんだ」
春はそのことに気づいていながらも
入ってこようとしない。
ただただドア越しに私へ心の内を伝えては
「───けど、今なら手放してあげてもいい」
意味のわからないことを言う。