酔いしれる情緒
春は腕を広げて待っているけれど、私は逆に後退り。
「俺も凛を手放す気なんてさらさらないよ」
「言ってることがめちゃくちゃ…」
「うん、ごめんね?
凛の気持ちを再確認したくて。」
……だと思った。
ドアを開けたら満面の笑みを浮かべていたんだからコイツ。
中に入ってきた春はなぜかドアに鍵をかけた。
「俺さぁ 結構モテるよ」
「………何が言いたいの」
後ろにさがりすぎて机に身体がぶつかる。
前には春、後ろは机。
部屋の鍵は閉められていて
「だって俺─────人気者だし。」
逃げ場はない。
「さっき手首結んじゃってごめんね?橋本さんにバレると由希子さん以上に厄介だからさ、今はあそこでジッとしててほしくて」
……あの人が橋本さんか。
春と由希子さんの会話の中で出てきた人だ。
「まあそれも理由の一つなんだけど、」
ジリッ…と近づいてくる。
だけど私はもう動けないし、
「仕事の関係上、少しの間ここに帰ってこれなくなった。だからその間凛は1人になっちゃうけど、」
春が机に手をつくと
グッと距離が縮まる。
「逃げないでね?」
その表情は、私がどう答えるかなんて分かりきっているような。
そうであっても私の気持ちをもう一度確かめるような煽り方だ。
(………ムカつく)
確かめなくたって、さっきも言った通り私はこの強引野郎に心を惹かれているわけで。
「……逃げるわけないでしょ。てか、逃げたくても逃げられないのよ」
私の前に別の誰かが現れたとしてもコイツほど強引な男はいないだろうし、
「ここに来た時からアンタに捕らわれているんだから」
それに慣れてきている私は
物足りない
という気持ちになるはずだから。
春の目をしっかり捕らえてそう言った。
私がこんな言葉を言うようになったのも全部が春のせいだ。
ああもう、ほんとムカつく…
まんまと春の心に惹き込まれてしまった自分自身にも腹が立つけど。