酔いしれる情緒
離ればなれになりました。
朝ご飯を食べ終えると、このリビングには洗い物をする私しかいない。
春は「準備があるから」と自分の部屋に行ってしまった。
(……確か今日から)
少しの間帰ってこれないんだっけ。
「どこに行くの?」と聞いても「秘密。」としか答えてくれない。
そんな春に苛立ち「今日は仕事?」って聞いてきた春に対して「秘密。」と同じように答えてやった。
その時の春はどこかムッとした表情を見せたけど、私も同じ気持ちですから。
洗い物を終えてからは軽くシャワーを浴びて、家を出る時間までの間、やっとできた自分の時間にホッと落ち着きを取り戻す。
手には小説。
さっきは春に邪魔されて読めなかった。
春がこの空間にいない今、邪魔者はいないしやっと読み進められる。
…………そう思っていたのに。
「凛~」
「………………」
なんてタイミング。
読み進めようと本を開けた瞬間だった。
「服、貸してよ」
春がリビングに戻ってきたのだ。
「服?なんで」
「持って行こうと思って。
少しの間、それを凛の代わりにする」
「気持ち悪い」
いや、ほんと、気持ち悪い。
急に何を言い出すかと思えば
服を貸してほしい?
それを私の代わりにする?
いやいや、なんの代わりよ。
「えー……ダメ?」
「い、……ダメ」
危ない、危ない。
捨てられた子犬のようにシュンッと縮こまって、その綺麗な顔で上目遣いをされては「良いよ」って言いそうになってしまった。
ムゥッと唇を尖らせたって、絶対に許可してあげないから。
「凛を感じれる物がないと頑張れない……だから1着だけ、ダメ?」
「しつこい」
ダメだ。また読めそうにない。
いつになったら最後まで読めるんだろう。
前の私なら2日もあれば読み切ってしまうのに。
「んー……分かった」
ショボン…と見るからにテンションが下がった春。
悲しげなオーラを漂わせる春が部屋に戻っていくところを少しだけ見つめてから、再び視線は小説へ。
パラッと静かな空間でページをめくるけど……内容が入ってこない。
頭の片隅にはずっと春がいて
(……あー、もう!)
自分の依存具合には本当に呆れる。
一度春のことを考えれば、もう頭の中は春のことでいっぱいになってしまうのだから。