酔いしれる情緒
「えっ、と…」
橋本さんが言っていることは何一つ間違っていない。全て事実だ。
なのに、私はスグに「はい」と頷けなかった。
なぜこうも戸惑っているのか。
その通りなのに、なぜ頭の中では否定を連想させる言葉ばかりが思い浮かぶのか───。
ギュッと手に力が籠る。
個室のこの部屋。
2人しかいないこの空間では静けさが広がり、
座敷のこの場所で私は正座をして顔を俯かせた。
嘘でも言えばいい。
春が言っていたんだから。橋本さんにバレると厄介だと、そう言ってたじゃん。
「はい、そうです。」と答えるだけ。
『ただの』家政婦だと、言え。
そうすれば、橋本さんは納得してくれる。
隠さなきゃ。
私と春の間には何も無いって。
会いたいと思う気持ちも
触れたいと身体が疼くことも
恋焦がれる想いも、何も無いって───…
「────…はい、間違いないです」
ポツリとその言葉を呟く。
きっと橋本さんが求めていた回答はそれ。
だからこそ、
そこで止めるべきなのに
「けど、」
私は続けて言葉を発してしまう。
「そんな家主に心を惹かれているのも事実です」
その言葉が橋本さんにとって気に食わない内容だとしても。