酔いしれる情緒




「ずっと待ってるだけは嫌。

私は、春とその先に進みたい。」





ふわふわと揺れる髪。




チカチカと光る街灯が

より一層彼を煌めかせて

なんだか映画のワンシーンみたいで。






「私からも歩み寄らせてよ」





春のことを知っているつもりでも

まだまだ知らないことはいっぱいある。



こんな風に誰かを欲しいと思ったのは
春が初めてなんだ。





春は不安そうに瞬きを速めると

わしゃわしゃと頭を掻いては「んー…」と小さな声で唸り声をあげていた。




その声がピタリと止まった時




観念したかのように、

春は顔を下に向けたままこう言った。





「………分かった。けど、約束して」

「約束?」

「うん」





チケットを持つ手を優しく掴まれる。





「ここに行ってもいい。だけど、その場で橋本さんに何かを言われたとしても絶対に耳を傾けないで。

寧ろあんな人放置していいから逃げることを最優先で考えてほしい」


「逃げるって……何をそんなに恐れてんのよ」


「引き裂かれることだよ」





さらりと言って。





「俺はもう、凛を手放したくない」


「っ、!」





引っ張られ、気づけば春の腕の中。


密着するそれに落ち着かせていた心拍数が
訳分からなくなってる。



だからここ、外だってば…!





「ちょっと、春…!」


「あの人頭固いし、知らないうちに凛に何かしようとしてるし。ほんっとムカつくよ」





確かにあの人頭固そうだけど。

好きか嫌いかで言えば嫌いな方の人種だけど!

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