酔いしれる情緒



「はぁー……そっか、そっか。」


「ちょっと動かないで」





言うと春は「ごめん」と口元を緩ませて私に頭を預ける。





「女のそういう感情って鬱陶しいだけだったけど……凛のは悪くないね。」


「………何の話」


「ううん、なんでもないよ~。

てか俺も橋本って呼び捨てしようかな」


「怒られるわよ」


「そうなったら一緒に怒られてよ」


「いや私関係ないし……あの人はほぼ赤の他人のようなものだから言えるの。そもそも棲んでる世界が違うしね」





ほら出来た、と。

春の肩をポンポンと叩いて合図する。



春のものじゃない髪がふわっと揺れた矢先、肩を叩いた手はやんわりと取られて。






「何言ってんの。俺と関わってる時点で凛は既にこの世界と関わり合ってるよ」





綺麗な目を細くして、妖しく笑いながら私の手のひらにキスを落とす。





「……最悪」


「大丈夫。凛のことは俺がちゃんと守るから」





へらっと笑いながらそう言われても説得力皆無ですが?




しかも春がそう発言したそばから、近くの通りがなんだか騒がしくなり始めたし。



聞き耳を立ててみると、どうやらその騒がしさは記者……というか、週刊誌とかそんな所で働いてそうな感じの声で。





『一ノ瀬櫂がいなくなったらしいぞ!』

『女に会いに行ったか?』

『まだそう遠くには行ってないはず』

『これはいいネタになるぞ!』






「……守りきれてないからこうやって追われてるんじゃないの?」


「スリルがあって楽しくない?」






全然求めてませんけど。こんなスリル。



あれを聞いても春は慌てるどころかもう一度手のひらにキスをしてきた。ほんと呑気すぎる。


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