酔いしれる情緒
「………………」
「………………」
「………………」
「……………何か言ってよ」
急な沈黙にはちょっと恥ずかしくなる。
何かおかしなこと言ったのかなとか、冗談じゃなくて大真面目で言ったからこそ、何も言わずにジッと見てくる春に身体中がなんだか痒くなってきた。
「とりあえず…そういうことだから」
そしてまた、近くの通りから例の記者達の声が聞こえてくる。
ここが見つかりにくい路地裏だとしても
バレてしまうのは時間の問題で。
「ッ! なっ…」
触れるだけの軽いキスが唇に落ちては、突然のことに顔が赤くなってしまう。
「やっぱり凛が1番綺麗だ」
「そ…いうのいいから…!」
「本当だって。
凛以外みんな同じ顔に見えるし」
「アンタの目がおかしいだけ…」
春の言葉ひとつひとつが歯がゆくて仕方がないし
「俺の目に映るのは凛だけで、綺麗だと思えるのも凛だけ。
俺には気が逸れる時間すらないよ。」
本音か演技かわからないところが、また憎い。
「俺はどこにも行かないから」
「…うん」
「凛に連れ去られる流れも捨て難いけど、あの時の約束果たしたいしね。」
「約束?」
「あれ、覚えてない?」
………はて。
思い出せそうで…思い出せない。
最近いろいろと騒がしい日常だったから、約束をした記憶が隅に追いやられてる気がする。