酔いしれる情緒



その日を境目に春は私の前から姿を消した。




2日経っても1週間経っても1ヶ月が過ぎても。


春の姿をこの目に映すことはなく、時間だけがただただゆっくりと進んでいった。






いつも通りの毎日。



好きな本に囲まれながら働き、家に帰って1人分の食事を簡単に作って、誰もいない部屋で静かに食べること。



月日が経てば心寂しい気持ちもいつの間にかなくなって、1人という感覚ももう慣れてしまった。



これが当たり前なんだと、そう思ってしまえば苦しくない。






長いようで短い、春と過ごしたあの期間。



今思えば、夢でも見ていたかのような、そんな感覚だ。





テレビの中にあるその姿。


大きなポスターが街中で張り出されていたり、雑誌の表紙を飾っていたり。



至る所で彼を目の当たりにすると本当に遠い人なんだな、って。

再度そう感じてしまっても仕方がない。




だって、そんな人と一緒に暮らしていたとか、一般人の私にとってはまさに夢のようなお話なんだから。





あまりにも刺激的だったあの日々。

あまりにも情熱的だったあの頃。




そんな日々とは遠く離れた日常の中『その時』を待つ私。







─────そして2度目の冬がやってくる。

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