酔いしれる情緒



少しして慎二くんが店内に戻って来た。



外で窓を拭いていたんだから寒いはずなのに「暑い~」と腕まくりをして。





「お疲れ様。休憩室でちょっと休んでくる?」


「大丈夫っす!筋トレだと思って上の方まで
ふきふきしたから腕はパンパンっすけど!!」





そう言ってパタパタと腕を揺らす慎二くん。



視線が自然とそこに向くと、私は慎二くんの手首に付けてあるメタルパーツ付きのヘアゴムに違和感を持った。





「それ、彼女さんの?」


「ん?あ、これっすか?俺のッスよ~」


「髪の毛結ぶんだ?」


「そんなわけないじゃないっすか!

俺結べるくらい長くないし!」





じゃあなんで付けているんだろう。




不思議だなと首を傾げれば、慎二くんは「知らないんすか?」と続ける。





「今手首にこういうヘアゴム付けるの流行ってるんすよ」


「へえ…そうなんだ」


「まあこれを流行らせたのは────」






と。ここで来客音が鳴る。



それと同時に私と慎二くんは2人揃って「いらっしゃいませー」と続けた。



そこからお客さんの数もちょこちょこ増えていき、慎二くんとの会話はそこで終了。




中途半端な終わり方だったけど、別にその先が気になる訳でもないし続きは聞いていない。





そうか、流行っているのか。

手首にヘアゴムを付けることが。





今日、2つ目の流行を知る。


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