酔いしれる情緒
脳内にキラキラと、一気に蘇るもの。
あの出来事は今まで生きた中で1番鳥肌が立って気持ち悪かったくせに。
なんで……忘れていたんだろう。
『おねーさんの好きな小説教えて?』
『えーと、私の好きな小説ですか?』
『そ、おねーさんの』
『そうですね…最近のオススメはコレですかね』
『最近のオススメじゃなくて、おねーさんが今まで読んだ中で1番お気に入りのやつ。
それ、教えて?』
あの日は確か……今日みたいに寒い日で。
『この前の小説、取りに来たよ~』
『あぁ、ありますよ。』
『へぇ…コレがおねーさんの好きな小説か~』
『800円です。』
『はいはーい、ちょっと待ってね~』
でもあの頃と少し違うのは
大きめマフラーも丸メガネも
今じゃ変装用の物を何一つ身につけていないところと、
『おねーさんさぁ
もしこの小説が映像化されるとして、俺がその主役に選ばれたら結婚してほしいんだけど。』
この意味不明な発言をしてきた人が
あの俳優の一ノ瀬櫂ご本人だということを
私が知ってること。
それから───────
「─────思い出した? 凛。」
私のことを『凛』って、名前で呼ぶところ。