酔いしれる情緒


春の手が私の方に伸びてくると、とても優しく頬を撫でた。




まるで壊れ物を扱うようにそっと触れて。



真っ赤に染まる、私の頬に。





「ま…まって、ちょっとまって…」





今度は私が頭を抱える。




ぐるぐると脳内を駆け回るのは、コイツの熱愛の件。




そうだ、そうだよ。


コイツは今、熱愛を撮られてて。


違う誰かを好きで。


なのに、ここに来て。


私に、結婚しようなんて……おかしすぎる。




パニックを通り越してもはや爆発してしまうんじゃないかと思えるくらいに頭を使った。



冷静に考えれば分かることなのかもしれないけど、冷静になんてなれるわけが無い。




と。





「混乱するのも無理ないよねー…」


「え……えっ?」


「こうなったのは全部橋本さんが悪いし。」






「ね?」と、後ろを振り向いた春に思わず目を丸くさせてしまった。






「全部が全部俺のせいじゃないだろ」


「いいや、橋本さんのせいだね。」






ギャーギャーと言い合うこの2人。



後から現れたこの人も紛れもなく私の知り合いで。






「てゆーか春、お前なあ…。店の迷惑になるから話は営業時間外にしろって言っただろ」


「もちろんそのつもりだったよ。でも橋本さんのせいで後戻り出来なくなったんだよね~。誤解しないように伝えてきてって言ったのに、何一つ伝わってないし」


「ああ。それなら伝えてないから。」


「はぁ!?」


「まだ世間にもコメント出してないのに、安藤さんにだけ教えるのは対等じゃないからね」






「そんなこと言ってる場合じゃないだろ…」と呆れ顔の春は未だ私の手を掴んだまま。





「あのさ~…凛に軽蔑されたら、俺『事務所辞める』って言わなかった?」


「あー言った言った。だから『信じて待ってればいい』って、そう予防線は張ったって言っただろ?」


「どこが!」


「大丈夫大丈夫。安藤さんそんな事で軽蔑するような人じゃないし」


「さっきそうなりかけたんだけど…」






「はぁ…」と大きく溜め息をついた春を横目に、私は再度橋本に視線を当てた。





(いつの間に来てたんだこの人……)





しかも第一人称僕じゃなくて俺だし。

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