酔いしれる情緒
これが本性かと、
そう思ったのと同時に目が合った。
すると橋本は口元を弧にして、笑う。
「ね?安藤さん。
信じて待ってみるのもアリでしょう?」
「…………………」
………なんて答えるべきなのか。
二人の会話を聞いた感じ、あの日橋本は私に何かを伝えに来たらしい。
世間にまだコメントしてないからとかなんとかで結局それを伝えることなく帰って行ったけど。
春はそれが気に食わないみたいだ。
「う、わっ。」
軽く相槌を打とうとすれば、不意に手を引っ張られたことによって身体が傾いた。
倒れた先は、春の胸元。
「もうあの人に耳貸さなくていいよ。」
春は私の耳元に口を寄せて私だけに聞こえる声でそう言った。
春の声には鼓膜を刺激する何かがあるのか
毎度、ぞくりと、震えてしまう。
「店長~電球交換終わったすよ~」
このよく分からない状況の中、入口とは真逆の奥の方、ストック置き場からひょっこりと現れたのは慎二くんで。
店内にいないなとは思っていたけど、やっぱりストック置き場にいたらしい。
そして店内の異様な空気感を察知したのか、
「え?………えぇっ!?」
春の姿を目にして一際煩く騒ぎ始めた。
今までお客さんが誰一人いなかったのが救いだったというのに………最悪だ。
「ちょっ…本物っすか?!」
バタバタとこっちに接近してくる音。
その感じだと、慎二くんはまだ私がここにいることに気がついていない。
慎二くんのことだから私と春の関係を知ると同時に耳が痛くなるくらいの声量で騒ぐはずだ。
バレていないのは好都合だけど、このままだとバレるのも時間の問題。
それだけはどうにか阻止したい(めんどくさいから)。
この状況をどうしようかと、まだ混乱気味で使い物にならない頭を無理矢理ぐるぐると回転させてみる。
と。
「っ!」
春は私の肩に片腕を回しては
もっと密着するように、引き寄せるようにギュッと抱きしめたのだ。
まるで、私を隠すかのように。