酔いしれる情緒


「あー…そっか。説明がまだだったね」


「……………」


「んー、なんて言えばいいんだろう」





顔に手を当てて考える様子を見せる春。




説明なんて、簡単じゃん。


あの話が嘘ならただ否定すればいいだけ。



何も無かったって、そう言えばいいだけなのに何を悩む必要があるのか。




………それとも。

悩む必要がある、話?





「俺、あの人と何度か会ってるんだよ。
凛と疎遠になってる間に」





春の言う『あの人』は
きっと熱愛が出た相手のこと。



会ってる。そう聞いて心臓が嫌な音をたてた。





「でもそれは仕事で何度か共演しただけで特別何かがあった訳じゃないけど…撮影の休憩中にその人と2人っきりになったことがあって、
たぶんその時に撮られたんだと思う。」





撮られたことない。

そう言ってたくせに、撮られてるじゃん。



なんて。



気が乗らないままツッコミを入れようとしたけど、春がそれを遮るようにまた話し始めるから口を噤んだ。





「撮られたって言っても週刊誌とかそういう人達にじゃなくて『その人』に。俺全然気づかなくてさ、熱愛疑惑が世間に広がってから匂わせ写真がインスタにあげられてることにようやく気づいたんだ。」


「(インスタ…)」





その話にはもちろん聞き覚えがあった。



店に来ていた女子大生らしき2人が話していたこと。





『なんか数ヶ月前からインスタに交際匂わせみたいなのあげてるらしいよ』


『うっそ!マジ!?
そんなのほぼ確定じゃん!』





その会話が蘇る。


< 306 / 325 >

この作品をシェア

pagetop