酔いしれる情緒


案の定春は口角をあげて嬉しそうに笑った。



その表情を目にして私はちょっとした羞恥心と悔しさで顔歪ませる。




なんかもう、身体中が熱い。


繋がってる手なんて振り払いたいくらいに熱い。



真冬で上着無しの状態なのに腕捲りをしたいくらいだった。



だけど手を離そうとすれば

それは許さないといった感じで掴まれる。





「逃げないで」





しかもさっきよりも密着度の高い、指をしっかり絡ませる、あの繋ぎ方で。





「離れていれば気持ちが変わってしまっても仕方がない、って。そう言ってたから凛の気持ちはもうここにないんだと思ってた」


「っ………」


「でも、今思えば

凛の気持ちはまだ俺に向いてるって
その証拠がここにあるのにね」





トントン、と


指先を自身の首元に指す春。



その仕草は私に自分の首元を見ろという命令なのだろう。



従うように、そこに視線を当てる。



そこにはもちろん

今まで外さずに身につけてたネックレスが。




疎遠になっていたとしても


繋がっている証が欲しくて


ずっと、身につけていたんだ。





「俺もちゃんとつけてるよ」





一度手を離されると


春は隣で腕捲りをし始めた。





「ずっと、身につけてた」





そう言って私の前に腕を掲げる。



そこには今流行りのアクセ付きヘアゴムがあって





「" ロンリー "って書いてあるこれを」





…………あれ。



まてよ。それって確か────





「私がアンタに貸したやつ…」


「そ。」





まあもう俺のだけどね。と、


あげた覚えはないが、たぶんそう言ったところで返ってくるはずが無さそうだし、思っていても口にはしなかった。





「腕時計とかそういったアクセサリーが許される撮影の時はずっと身につけてたよ。だからコレについて聞かれることもいっぱいあったし、テレビで話したこともある。
これは俺の大切な人の物です、って。」


「えっ」





ニコニコと笑顔を浮かべながら言う春に対して
私は驚きのあまり思わずそう声が漏れた。



コイツの熱愛疑惑はきっとそこから紐付けられたに違いない。



だって、その発言はそういう存在がいるってことを明らかにしたのと変わりないし。





ちらりと由紀子さんに視線を向けてみる。



するとちょうど由紀子さんも私を見ていて

その顔は苦笑いを浮かべていた。





「そんなこと言って……橋本さんに怒られなかったの?」





この時だけは呼び捨てではなくて
さん付けで呼んでしまう私。



頭の中で思い浮かぶ、橋本の苛立った顔。



なんの撮影でなのかは分からないけど、その発言の後きっとネチネチと何か言ってきたはずだ。



契約してから3年の間は色恋沙汰は起こさない
っていう決まりがある中で熱愛を予想される発言。



由紀子さんの表情からして……その発言の後、事務所内が慌ただしくなったんだろうな、って。



そう気づいてしまう。





「ん? あー、なんか騒いでたっけ」





春はその事に対して悪気があるのかないのか。





「でも本当のことだし、

その事実はこの先もずっと変わらないから
嘘つく意味ないよね」





そんな事をへらりと笑って言うから


悪気もなければ反省も全くしていないんだろう。

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