酔いしれる情緒
「ジャムかバターどっちがいい?」
キッチンから少し奥にいるソイツに声をかけると
「凛はどっちにする?」
わざわざキッチンへとやってくる。
いや、別に来なくていいんだけど。
「私はバター」
「じゃあ俺もバターにする」
「…なんで合わせてくんの」
「凛と同じ物食べたいから」
地味に近い距離に立つソイツは、ニコニコと楽しそうな表情をする。
何が楽しいのかわからないけれど、とりあえず無視して朝食の準備を進めた。
「コーヒーは飲める?」
「飲めるよ~」
「(じゃあ今日はコーヒーとサラダとパンでいっか…)」
本当になんでも揃ってるから、買い物行ってないにも関わらず立派な朝食が出来た。
「朝からこんな豪華な食事初めてかも!」
「………………」
この前みたいに、コイツはキラキラとした目でテーブルに用意した朝食を見ていて
「パン焼いただけだよ」
「俺こんなに綺麗に焼けない」
「…機械音痴なの?」
「そんな事ないと思うんだけどなぁ」
パンなんてトースターに入れてタイマーセットするだけなのに。
ずっと「美味しい美味しい!」を連発するコイツに、思わず笑みが溢れる。
「落ち着いて食べないと喉に詰まるよ」
なんだか
小さな子供のようで、可愛い。
「ケホッ、」
「あーほら、水持ってこようか?」
「ううん、大丈夫」
そう言って、コーヒーを飲む姿を見て
(……、……あれ?)
「苦い…」と、ミルクも砂糖も入れずに飲んでしまったからか、ブラックコーヒーの苦さに顔を歪めるコイツ。
その飲む姿が
「アンタ……誰かに似てるって言われない?」
あのCMに映ってた男の人に似てる、そう思った。