酔いしれる情緒
不覚にも綺麗だと思ってしまいました。


私の家は駅から少し歩いてすぐの場所にある。


あの本屋と同じで広くもなければ狭くもない、そんな家。



家の中にはテレビとか洗濯機とか、
当たり前のようにあるけれど



テレビだけはあるだけでほぼ観ることはない。



だからテレビの中の情報は私の中ではほぼ0に近くて、


たまーに駅前の大きな画面に流れるCMやニュースなどを見るだけ。





そしてそのたまーにが今である。





「あ!みてみて~CM流れてるよ!!」

「いつ見てもカッコいい~」





きゃあきゃあと騒ぐ女子高生を横目に、
私もその画面を見上げた。




そこにはお酒を片手に持つ若い男の人の姿。


若い、と言ってもたぶん私と同じくらい。





(お酒のCMか。そーいえばお酒なんて久しく飲んでないな)





ただそれだけを思って、また歩き出す。





……だが。








「………?」





その映像から流れる声が


なんだか聞き覚えのあるような気がして、


足が止まる。





(どこかで…………)





見上げれば、映像はさっきのCMのまま。




爽やかな笑みで映る、この男の人から聞こえた声…だよね?





不思議な感覚に陥った。


聞いたことあるような気がしたけれど、
どーしてもそれが誰なのか思い出せなくて





(気のせい…か)





たぶん、そうだろう。


うん、気のせい気のせい。




思い出せないって事はよっぽど重要じゃない事なんだと、自分に言い聞かせた。

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