酔いしれる情緒
起こしちゃまずいと思い、ゆっくりとその場から離れる。
ふと、その時に
寝ている春の手に目線がいって
(あっ、この小説、)
今、本屋で大人気の、あの小説だ。
確か……一ノ瀬櫂が主演の。
(………読んでるんだ)
まさか持っているなんて思わなかった。
ああ、でも、
この間の本屋さんでジーっと見ていたっけ。
一ノ瀬櫂は男も虜にしてしまうような俳優さんなのだろうか。
………気になる。
いつもなら俳優なんて気にもならないのに
春もその小説を読んでいるという事を知ったからか、急にその人がどんな人なのか知りたくなった。
(携帯……)
キョロキョロと周りを見渡せば
意外とソレは近くにあって
ソファーを背もたれにし、その場に座った。
(カイって、どんな字で書くんだっけ)
調べようとしたものの
"櫂"という字を忘れてしまい
本の帯に書いてあったよね、っと。
春が持っている本を再び確認しようとして
振り向く。
が。
「っ! びっくりしたぁ…」
寝ていた春が
パチリと目を開けて
起きていた。
まさか起きているなんて思わなくて
目が合うと思っていなかったから、驚いた。