酔いしれる情緒
「凛、知ってるの?あの小説」
「知ってるも何も、お店で大人気だから。」
「あー…そうなんだ。人気ねぇ…」
この反応は
最近人気のある小説だからと手に取ったわけではなさそうな。
………、じゃあ。
「春も、一ノ瀬櫂って人が好きなの?」
大体の人はそれが理由で買っているっぽいし。
まあ、女性が、ね。
「…………………」
ピタリ。
スプーンを持つ手が止まった。
少し傾いていたからか、すくったグラタンはお皿の上へボトッと落ちている。
「凛、テレビ見ないんだよね?」
「うん。見ないけど」
「じゃあなんでソイツの事知ってんの?」
口調は冷静だ。
なのに、
私を見るその綺麗な顔は
少し焦っているようにも見えた。