酔いしれる情緒
「本の帯に書いてあるから」
ジッと見られている事に少しの緊張。
その緊張を紛らわせようと、私はグラタンを頬張る。
春は何に焦っているのだろう。
ただ、" 一ノ瀬櫂 "が好きかと聞いただけなのに
好きか嫌いかよりも
その人物をなぜ知っているかを聞いてきた。
よほどテレビの中の情報に疎いと思われているのかもしれない。
まあその通りなんだけどさ。
「…ああ、帯か。そっかそっか……」
すごく安心しきった顔。
再びスプーンを持つ手を動かし始めて、やっと見つめられている事から解放された私も、なぜか安心した。
「一ノ瀬櫂、好きじゃないよ。
ただ、映画化するって話を聞いて読んでみただけ。
本を原作としてやる映画ってさ、たまにストーリーが違う時あるでしょ?
そのまま映像化すればいいものを、映画専用に違う結末にする。俺、それ嫌いなんだよね。なんか嘘を教えられている感じがしてさ。」
グラタンを食べながらそう言う彼に、なんとなく納得してしまう私。
確かに、春の言う通り。本を読んでから映画を見に行くと、ごく稀に「(…あれ?)」と思う事がある。
こんな終わり方だったっけ?って。
小説でのストーリーが好きでその話を映像化されたソレを観たくて行っているのに、観ると少しストーリーが違う。
なんだか騙された…という気持ちになるということ。